教員の学校外での活動に迫るインタビュー企画『先生の活動!』
今回は、2025年8月に発売された本『先生を続けるための「演じる」仕事術』の著者、松下隼司先生に「演じる」ことについてお話を伺いました。
- 自分に自信がなくて仕事がつらい
- 人間関係の構築が苦手
- 相手に怒りをぶつけすぎてしまう
- クレーム対応がしんどい
自分自身を守る武器がほしい先生は、ぜひ参考にしてみてください。これを読むと「演じる」のイメージがきっと変わります!
松下隼司先生のつらかった”教員1年目”、演劇経験からひらめいた「演じる」

まずは自己紹介をお願いします!

大阪の公立小学校に勤めている松下隼司と申します。いま23年目です。どうぞよろしくお願いします
教師になって20年以上経ちますが、教師1、2年目の頃は、死んだら楽になれるかもと思うことが多かったです。それほど、辛い日々でした

『先生を続けるための「演じる」仕事術』はこんな前書きから始まりますが、当時の状況について教えてください

学校の先生になりたての23〜24年前、授業のやり方や児童との関わり方を大学でほとんど学んでなかったなって思うんです。
そんな中、教師になって1年目が5年生の担当で、大変で全然うまくいかなかったんです。それなのに6年生まで持ち上がりで、校務分掌も1年目から体育主任だったんです

1年目でそれは大変ですね

前の体育主任が入れ替わりで転勤されたんです。だから聞く人もいないし、しんどかったです。
そんな中で1番しんどかったのは、授業の仕方がわからないとか、児童とのやり取りで。初歩的なことですけど、教室に時間割を貼るってことすら知らなかったんですよ。しばらく貼らずにいたら児童から「先生、教室に時間割貼ってもらっていいですか」って。そんな次元だったんです
まずは形から入った、マラソン好きの人を「演じる」

著書のタイトルにある「演じる」という考え方は、どんなきっかけで生まれたんですか?

もともと教員になる前は、関西の小劇場の劇団に入ってたんです。
「演じる」って最初に切り替えたのは、朝がしんどかったから。「仕事着で寝て、起きたらその格好で出る」っていうのを思いつきました。マラソンが好きな方がマラソンの服装で寝て、起きたらそのまま走るように、私も服装から変えてみたんです

パジャマで寝ないで、朝の準備が楽になるようにしたんですね

そうやって服装から変えると、朝の気持ちが軽くなりました。今はさすがにもう47歳なのでニオイも気になるし、起きたら着替えてます(笑)
けど仕事着で家を出て、更衣室にはよらずにそのまま教室に行くっていう方法が今の自分にはあってますね
児童への指導を伝えるための「演じる」

ほかにもいろんな「演じる」が書かれていましたが、それらはどんなきっかけで始めたんですか?

ぜんぶ失敗から始めたことです。
特に怒りっぽいのが若い頃からひどくて、怒り出したら止まらなかったり、小さいことなのに強く怒ったりしていました。それで「子どもを傷つけないように」って考えてアンガーマネジメントの勉強もしたんですけど、うまくいかなかったんです

でも指導しないといけない場面は必ずありますよね

そこで「母性が足りないな」って気づいて、お母さんを演じてみました。
初任の頃は児童を苗字で呼び捨てにしてたんですけど、お母さんになったつもりで「〇〇ちゃん」って呼んでみたんです。そしたら声のトーンがやわらかくなりました

名前の呼び方で印象はだいぶ変わりますよね

方言も変えてみると、感情が怒りに支配されなくなりました。
私はもともと大阪弁なんですけど「せなあかんやろ」とか言うと余計にヒートアップしちゃうので、広島弁・岡山弁で「そげなことしたあかんやろ」とか「〜じゃろ」って、やわらかくなるように演じてみたんです

とつぜん別の地域の方言が出てきたら、児童はびっくりしないですか?

当事者に対して厳しく言い過ぎると、周りにいる繊細な児童が「自分も叱られてるみたい」って傷ついちゃうことがあったんですけど、それが減ったのが良かったです

口調がやわらかくなるから、周りに過度な恐怖を与えずに済むんですね

そういうやり方をしていたら、オチまで考えられるようになりました。
児童を叱って最後に「……って、ふつうの先生やったら怒ると思うけどな」って

それって、言われた当事者はちゃんと指導を受け取れるんですか?

1番「失敗した」と思ってるのは、アンガーマネジメントを 「怒ったらダメ」って勘違いしてたんです。
怒ったら子どもを傷つけてしまうから良くない、感情コントロールできてない証拠だって思ってしまっていたときに、それまでちゃんとしてた子まで離れていってしまったんです。「なんで先生、ちゃんと怒ってくれないの?」って。真面目にしている子からの信頼を失ってしまった

真面目な児童にとってはストレスですよね

そうなんです。学級がギクシャクしてしまって、自分も我慢しているからストレスになって。
そこから、やっぱり本人のためにも周りのためにも言うべきことは言わないとダメ、メリハリが大事だなって気づきました

言うべきことを伝える手段として「演じる」という方法に行き着いたんですね
コミュニケーション上手な同僚を「演じる」

同僚との間で「演じる」ことはありますか?

私が1番苦手でしんどい経験があるのが、同僚との人間関係なんです。
放課後の職員室で、見計らって 「すみません今よろしいでしょうか」って話しかけると「いま無理」って言われて傷ついて

そう言われると次に声をかけるのも悩みますよね

そういう話しかけるのが難しい方に、うまいこと話しかけてる同僚がいたんですよ。そのやり方を真似してみたら、うまくいくようになりました

コミュニケーションが上手な人を「演じて」みたんですね

私は小さい声で「すみません、今お忙しいと思うんですけどよろしいですか?」って話しかけてたんですけど、うまい方は「すみません」って話しかけないんです。自分は悪いことをしてないから。
小さい声で遠慮して言うんじゃなく「〇〇先生、今よろしいですか」って大きい声で言う。そしたら周りの目もあるから「いま無理」とか言いづらいじゃないですか

話しかけていることが周りの人にもオープンになりますもんね

「すみません」って下手に出てないから、断られても傷つかないんです。
以前の私は「いま無理」って言われたら「そうですか、お忙しいときにすみません」って謝ってたんです。でもその方は断られても謝らずに 「承知しました」って元気に応えてました。「自分は何も悪いことしてないから」って

確かに、話しかけただけですもんね

若い頃は職員室が苦手で、放課後は自分の教室で仕事をやってたんです。けど今は児童を帰したらできるだけすぐ職員室に行って、職員室で仕事をするようにしてます。やっぱり同僚から学べることは多いなって気づいたので
保護者対応で自分を守るために「演じる」

本の第2章は『パワハラ・カスハラへの演技対応』ですが、保護者対応ではどんな変化がありましたか?

保護者との電話で厳しい言葉をもらって涙することがよくあったんですけど、必要以上に傷つくことがなくなりました

自分を守る「演じる」について、教えてください

コールセンターで働いている知り合いがいて、苦情の対応をどうしているのか聞いたら「別のことやってる」って。電話で「申し訳ございません」って言いながらも別の業務をする

どういう業務だったら電話を受けながらできるんですか?

例えば週案を作る、校務分掌の書類を作るとか。
教科書をめくったりして、とにかく目の前にあるものを変化させて、意識的に別のものを見るんです

電話相手に「ちゃんと話、聞いてるの?」と言われたことはないんですか?

もちろん毎回やってたら保護者に失礼ですけど、ちゃんと受け答えはしてるので、言われたことはないです。
保護者から「ボケ」とかそういう言葉が出てきそうで「これはちょっと危ない、自分を追い詰めてしまう」ってときに、あえて別の業務をするようにします

意識を分散させながら対応することで、気持ちは楽になりましたか?

今までは100%ぜんぶ受け止めちゃってたんですけど、それが楽になりました
『先生を続けるための「演じる」仕事術』はこんな人に読んでほしい!

今回の本は、どんな方に読んでもらいたいですか?

先生方は本当に、年々しんどい状況になっているかと思います。心で泣いて顔で笑っている、そんな「演じないと続けるのが難しいな」って思っている方に手に取っていただけると嬉しいです。
あとは、週末に保護者から連絡があると土日に暗い気持ちをずっと引きずっちゃう、そんな方にも読んでいただければと思います

私も読ませていただいきましたが、自分に自信がない方や、仕事で心が折れてつらい思いをしている先生におすすめしたいです。「演じる」という考え方を習得すると、仕事のしやすさが変わってくるかと思います。
松下先生、どうもありがとうございました!
松下隼司先生のプロフィール

| 名前 | 松下 隼司 |
| 年齢 | 47歳 |
| 勤務場所 | 大阪市の公立小学校 |
| 勤務形態 | 専任(正規雇用) |
| Voicy | しくじり先生の「今日の失敗」(松下隼司) |
