先生の活動!今回のインタビューは香川県の公立小学校で働く植田拓人先生。
「教員をやりながら別の場所で活躍できることが、すごく励みになっている」と語る植田先生に、仕事と両立するための心がけや砲丸投げへの思いなど伺いました。
部活動などで始めた自分の好きなことを教員になっても続けたい方や、学校の外で心の支えになるものを見つけたい先生はぜひ参考にしてください!
植田拓人先生のプロフィール
名前 | 植田拓人 |
年齢 | 26歳 |
勤務場所 | 香川県の公立小学校 |
勤務形態 | 専任 |
Webサイト | 植田拓人公式ホームページ |
YouTube | 植田’s陸上日記 |
砲丸投げ指導者・選手の活動をインタビュー
植田先生は小学校教員でありながら砲丸投げのコーチ、そして選手としても活動されているんですね。
砲丸投げはどんなきっかけで始めたんですか?
始めたのは中学1年生です。当時の担任が陸上部の顧問で「陸上部見に来いよ」と誘われました
陸上部って短距離・長距離とか種目別に分かれますよね。その中で砲丸投げを選んだのはどういう理由だったんでしょうか
誘われたときに「走るのは苦手ですよ」って伝えたんですけど、「陸上って走る種目だけじゃないからな」って言われたので、見学に行ったんです。当時、体型ががっちりしてたので「砲丸投げは向いとると思う」と言われて、投げさせてもらったのが砲丸との出会いです
中学・高校・大学とずっと続けてこられたんですか?
そうですね、そして今もずっとです
植田先生の砲丸投げの実績を聞きたいです!
- 大学時代に四国インカレ優勝
- 香川県陸上競技選手権 優勝2回
- 高松市陸上競技選手権 5連覇
などです
就職活動のときに教員ではなく実業団への所属は考えなかったんでしょうか
実業団に入れるほどの実力ではないんです。四国大会で優勝してるんですけど、そこから全国への壁がすごくあるので。
教育実習の時点から教員になりたい気持ちが強かったので、そこはもう教員になるしかないと思っていました
教員の道へ進み競技から離れた、だけど砲丸投げに帰ってきた
砲丸投げを長く続けてきた中で「やめたいな」と思ったことはないんですか?
大学を卒業して、教員になるタイミングで1回やめたんです。教員と陸上競技の両立は無理だと思って
仕事との両立はなかなか難しいですよね
けど初任で最初の年にすごく苦しい思いをして、仕事のことを考え過ぎてふさぎ込むことが多かったんです。
そのときに周りから「そういうときは趣味に打ち込んだらいいんじゃない」って言われて、「趣味ってなんだろうな」と考えたときに「ずっと続けてきた砲丸をやろう」と思って、戻ってきました
砲丸投げってどこへ行けばできるんですか?
陸上競技場へ行って砲丸を借りれば、ひとりでも練習ができるんです。
「陸上を再開しよう」と思った次の週末には競技場へ行って、砲丸を借りて、ひとりでひたすら投げてました。そしたら熱中してすごく楽しかった頃を思い出して、気持ちが前向きになったんです。
「これはもう、また続けていくしかないな」って思いましたね
じゃあそのとき陸上を思い出したのが転機だったんですね
陸上を再開したら仕事も上向きになったというか、相乗効果がありました。陸上がうまくいくと、発想力も豊かになって仕事もうまくいくことが多いです
クラブチームコーチ・部活動の外部コーチ・オンライン指導という3つの指導場所
砲丸投げのコーチについて、詳しく教えてください
主に3つあって、
- 陸上競技場でクラブチームの指導
- 部活動の外部コーチ
- 個人的に繋がりのある人に行っているオンライン指導
です
ではまず、クラブチームについて教えてください!どういうクラブチームなんでしょうか
屋島レクザムフィールドという場所にある陸上競技場で、小学生・中学生・高校生まで所属しているチームです。
小学生は習い事ですね。中高生は学校に陸上部がないけど試合に出たい子や、陸上部に専門の先生がいないからクラブで指導を受けたい、部活+αで練習したいとか、そういう子が来ています
どういうきっかけで指導に携わることになったんですか?
ひとりで競技場で練習してるときに、クラブの代表の方から「もしよかったら投てきコーチをやりませんか」と声をかけられました。
そんな出会いがあるんですね
たまたまそのクラブに僕の学校の児童がいて「あれうちの学校の先生だよ」って代表の方に言ったんです。だから代表の第一声が「うちのクラブの子から聞いたんですけど、学校の先生されてるんですか?」だったんですよ。
そういう話から「学校の先生だったら子どもの扱いとか引率も慣れていらっしゃいますよね、クラブチームに来ていただけたらものすごくありがたいです」と誘われました
確かにコーチとして即戦力ですもんね。
2つ目の部活動の外部コーチはどんなところで教えているんですか?
主に中学校です。
もともと顧問の先生と繋がりがあって、僕から「もし砲丸やりたい子がいたら教えに行きますよ」ってお声がけして、呼ばれて行って指導する感じです
繋がりというのは、今まで競技を続けてきてできた繋がりですかね
そうです。だいたい先輩・後輩とか、もともとの知り合いです
3つ目のオンライン指導とはどういうものでしょうか
僕は「視覚的によくわかる、メディアを活用した指導」というのを心がけてまして、投げている動画があれば、それを分析して教えることができるんです。
実際に会わなくても「こんな角度で動画を撮って送ってください」と伝えて、その動画を見て修正するポイントを資料にまとめて返す、という指導をしています
分析資料はどうやって作っているんですか?
まず動画をスクショしてコマ送り画像を作ります。
それからパワーポイントで画像に吹き出しや囲み円を入れて、良いところ・悪いところをまとめる。
最後に総評としてコメントを書いて、データをPDFにします
けっこう大変そうですけど、もう作るのは慣れているんですかね
そうですね、だいたい1時間あれば作れます。
フィードバックは早い方が良いと思っているので、試合の当日中に作って翌日にはデータを渡せるようにしています
今どきな指導方法ですね……そんなやり方があるなんて驚きました。指導相手はどうやって見つけているんですか?
よくあるのは、大学の同級生が教員をやってるんですけど「うちの部活で砲丸してる子がいるんだけど相談にのってくれない?」とLINEが来るんです。その選手の動画を送ってもらって、分析して返したり。
ほかにも競技場で知り合った人と「僕、動画送ってくれたらオンラインで教えますよ」みたいな話をして、後日「投げてみたので見てください」って動画が送られてきて、それを分析して返すといった感じです
オンラインでやり取りする指導方法は植田先生がご自身で考えたんですか?
そうですね。もともとフォームを分析することが趣味なんです。動画をコマ送りで切り取って、「ここを直す」ってコメントをつけて。そんな資料を趣味で作ってたら「この資料さえあればその場にいなくても指導できるじゃん」と思って、オンライン指導を始めました
ボランティアだからこそ掲げる夢
コーチとしての活動は無償で行っているんですか?
ボランティアです
報酬をもらわないのってつらくないんでしょうか
迷ったことはあります。「ビジネスにしたらどれだけ儲かるのかな」って考えたことはあるんですけど、僕には目標があって
どんな目標ですか?
僕は「砲丸投げの裾野を広げて人気種目にしたい」という思いが強いんです。
砲丸投げって陸上競技の中ではマイナーじゃないですか、テレビ中継も少ないし。「砲丸を教えてほしい」って来る人も、大抵は第一希望じゃなくて短距離で挫折した人なんです
確かに走る競技と比べると花形ではないですもんね
そこを変えたいと思っています。
たぶん周りが僕に求めているのは、どこかのチームに所属して強い選手を育てることなんですけど、そうするといろんな人に教えられないんです
チームを勝たせるために外部へは関わりづらくなるわけですね
それは自分の夢とは違うなと思っていて。
僕はいろんな場所に関わって砲丸を教えて、普及していきたいんです。だからボランティアという立場の方が砲丸投げを広めるには良いなと思っています
なるほど、植田先生の立場だからできることかもしれないですね
最近もらって嬉しかった言葉があって、「砲丸を初めてやるので教えてください」って来た子に「なんで?」って聞いたら、「先輩が投げててかっこいいと思ったから」って言ってくれたんです。その先輩というのが僕が指導してた子で、もう涙が出るほど嬉しくて、憧れて入ってくるのが最高だと思いました
じゃあ魅力的な選手をいろんな場所で育てることが将来に繋がるんですね
だから今の夢は、砲丸投げを第一希望でやりたい子が増えてみんなで高めあって、人気種目にしていくことです
指導者として大切にしていること
砲丸投げの指導で大切にしていることを教えてください
まず1つ目は、選手との対話を心がけています。
例えば投げるフォームを教えるとき、客観的に見てあってる・間違ってると指摘するのは簡単なんですけど、選手本人の「自分の中でここはうまくいきました、ここは頑張ってみたけどうまくいきませんでした」という感覚を大切にしています。
トップダウンで上から「こうしなさい」と言われて練習する選手よりも、自分で考えて練習できる選手の方が、あとから成長していくんですよね
これまでの経験でそういう選手を見てこられたんですね
実際に僕の周りでも、強豪校出身で顧問の先生から与えられた厳しい練習メニューをこなしてきただけの人は、大学みたいに「自分でやれ」って環境に放り出されてから伸び悩んでしまう人が多かったんです。
僕は逆で、すごく環境が悪かったんです
植田先生はどんな練習環境だったんですか?
高校では部員が3人しかいなくて、顧問の先生も砲丸の専門じゃなかったので、全部自分で考えて練習してました。YouTubeを見ながら一流選手のフォームをひたすら分析して、真似して投げて、自己分析してました。その経験が今に活きてると思います
自分の感覚を分析し続けてきた経験が今に繋がるんですね
教え子にも自分の考えや感覚を大切にしてほしい思いがあるので、教える前に「どうだった?」ってまず聞いて、「こう思いました」というのを聞いた上で、対話しながら指導することを意識しています
2つ目に大切にしていることを教えてください
2つ目は、選手のバックグラウンドを大切にすることです。
例えば、ドッジボールを習っていた子なら肩の強さに自信があるはずなので「それが武器だから伸ばしていこうね」と伝えます。それから「ドッジボールの経験があるんだったら振り下ろす投げ方の癖があるから、砲丸はその投げ方だと怪我をする可能性がある。そこは気をつけようね」って
それまでの運動経験をもとに砲丸投げへアプローチしていくんですね
初めて砲丸をやる子には今まで何のスポーツをしていたか聞いて、そのスポーツと砲丸の共通点を見つけます。「この動きは得意だと思うから伸ばしていこうね」「この動きは怪我につながるから染み付いてるかもしれないけど気をつけようね」という話を必ずします
ほかにも指導で大切にしていることはありますか?
3つ目は、視覚的にわかる教材作りです。
フォーム分析資料を選手ごとに作って試合後にオンラインで渡します。
それに加えて、お手本が必要な子にはYouTubeにアップした動画のリンクを送って「これで学んできなさい」って言います
あと、さっき話したオンラインで個別に渡す分析資料に加えて、教科書みたいな教材を作ってます。初めて教える人にこれを「読み込んどきなさい」みたいな感じで渡したりします
最近はこのデータをスマホで持ち歩いて、「砲丸についてもっと知りたいです」って言う人がいたらネットプリントで渡しています。セブンイレブンの印刷機にデータを送ると、ほしい人が最寄りのセブンイレブンで印刷機にお金とパスワードを入れたら印刷できるんです
紙資料を持ち歩かなくて良いのは便利ですね。これを渡したらどんな感想が返ってくるんですか?
「凄かったです」としか言われないです……顧問の先生にお渡しした時は「ドン引きしました!学校の先生でこんなに作るんだ」って(笑)
指導の一貫で身につけた資料作りや動画編集スキルが、仕事にも活かされている
指導経験は教員の仕事に活かされていますか?
授業で同じようなことをしたりするので、活かされていると思います
授業でどんなことをするんでしょうか
例えば、僕の陸上ノウハウを活かして運動会のリレー用にさっきのような資料を作って、それを配布して子ども達と戦略を考えたりします
植田先生の資料を見て子ども達はどんな反応をするんですか?
すごく喜んでくれます。「俺たちこれで勝てるかもしれん!」とか言って盛り上がってくれます
確かに、そんな丁寧な資料をもらったら盛り上がりそうですね
僕の中で陸上が一番興味のある物事なので、何か試したいものがあればまず陸上関係で作ってみるんです。
資料作りや動画編集も、学校の教材作りから始めるのは難しそうだから、まず陸上関係で作ってみて慣らすんです。それから授業のワークシートをパワポで作るようにしたり学校で流す動画を作ったり、応用させています
難しそうなことを始めるときにまず自分の好きなことへ落とし込むんですね
そうですね。
趣味で陸上の動画を作ってるということもあって、昨年は学校で卒業生に向けた先生たちのメッセージ動画の作成を任されました。今では動画編集担当になっています
教員と陸上競技、どちらも楽しむことで両輪が回る
植田先生は選手としても活躍中とのことですが、ご自身の練習はいつされているんですか?
そんなにがっつり練習時間は取れていなくて、週1〜2回です。クラブチームで指導を兼ねて子ども達といっしょに練習することが多いです。
それが物足りないときは休日にひとりで競技場へ行って練習することもあります
植田先生がクラブチームへ指導に行く頻度はどのくらいあるんでしょうか
週1回、金曜の夜に3時間くらいです。土日に試合があるときは引率にもいきます
部活動の外部コーチはどのくらいの頻度ですか?
月1くらいですね。競技場で練習する日が月に1回あるので、それに合わせて行きます。
オンライン指導はどのくらいの頻度ですか?
オンラインは頼まれたらやるという感じなので、不定期でそんなに頻度は多くないです
そうすると全部合わせて、週末はだいたい砲丸投げ指導とご自身の練習に時間を割いているかと思うのですが、教員の仕事を週末へ持ち込まないように何か工夫されているんでしょうか
月火水木に仕事を振っています。なので木曜は遅くなることが多いですね。
金曜はクラブチームに行くので早く帰るために、木曜には仕事を全部終わらせて、金曜に残さないようにしています
そうすると金曜日以外の負担が大きくならないですか?
それでも「金曜に陸上行けるから嬉しいなー」って感じで頑張れています。
たしかに「教員やりながら陸上をやるのって大変じゃないですか」ってよく言われるんです。けどぜんぜん大変じゃなくて、逆に陸上をやらないとたぶん僕は病むんです。
教員をやりながら別の場所で活躍できることが、すごく励みになっています
陸上競技と仕事を両立するために心掛けていることはありますか?
仕事以外の趣味が陸上なので両立っていう考えはあまりないんですけど、楽しむことですね。
さっき話したように教員がしんどかった時期に陸上を再開したんですけど、陸上はパワーの源なんです
植田先生は陸上がすごく好きなんだなと伝わってきたんですけど、陸上へのめり込みすぎて仕事がおろそかになってしまうことはないんでしょうか
もともと小学校教員が好きで、仕事もめちゃくちゃ好きでやっているので、おろそかにはならないです。
例えば、この夏もメディア教育のセミナーで実践発表を行ったり、仕事も自分なりに熱量をかけて取り組んでいます
パワーの源があるから仕事も楽しんで取り組めるんですね。
植田先生、お話聞かせてくださりありがとうございました!
インタビューまとめ
- 一度やめた砲丸投げを再開したら気持ちが前向きに
- 指導場所は人との繋がりで生まれる
- 砲丸投げの教材作りで身につけたスキルが仕事で役立っている
- 金曜は早く退勤するため月〜木に仕事を割り振る
- 教員とは別の場所で活躍することが仕事の励みになる